オーラルフレイルとは?高齢者のお口の衰えを見逃さないための基礎知識と予防法
「最近、親が食事中によくむせるようになった」
「以前は硬いものも食べていたのに、最近は柔らかいものばかり選んでいる」
「何となく、以前より話し方が聞き取りにくくなった気がする」
ご家族との日常生活の中で、このような変化を感じたことはありませんか?
年齢を重ねると、噛む力や飲み込む力、舌や唇を動かす力などが少しずつ変化することがあります。
こうしたお口の小さな衰えは、「オーラルフレイル」と呼ばれる状態のサインかもしれません。
オーラルフレイルは、食事や会話といった日常生活だけでなく、栄養状態や全身の健康とも深い関係があります。
しかし、お口の衰えは早い段階で気づき、適切に対処することで改善できる可能性があります。
この記事では、オーラルフレイルの基本的な知識から、家庭でできるセルフチェック、予防方法、歯科医院での検査まで、初めての方にもわかりやすく解説します。
ご自身はもちろん、ご両親など身近な方のお口の健康を見直すきっかけにしてみてください。
1. オーラルフレイルとは?
お口の機能が少しずつ衰える状態

オーラルフレイルとは、噛む・飲み込む・話すといったお口の機能に、小さな衰えが重なり始めている状態を指します。
「オーラル(Oral)」は口、「フレイル(Frailty)」は加齢に伴って心身の活力が低下した状態を意味します。
私たちは普段、何気なく食事をしたり、会話をしたりしていますが、これらの動作には歯だけでなく、舌や唇、頬、喉など多くの器官が関わっています。
例えば、食事をするときには次のような動作が必要です。
- 食べ物を口に取り込む
- 歯で噛み砕く
- 舌を動かして唾液と混ぜ合わせる
- 食べ物を飲み込みやすい形にまとめる
- 喉を通して食道へ送り込む
こうした一連の動作がうまく連携することで、私たちは安全に食事を楽しむことができます。
ところが、お口の機能が衰えてくると、食べ物を噛みにくくなったり、飲み込むときにむせたりすることがあります。
オーラルフレイルの特徴は、こうした小さな変化から始まるため、本人も家族も気づきにくいことです。
口腔機能低下症との違い
オーラルフレイルと似た言葉に「口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)」があります。
どちらもお口の機能の衰えに関する言葉ですが、意味や評価方法は少し異なります。
オーラルフレイルは、お口の機能に小さな衰えが重なり始めている状態です。5項目のセルフチェックなどを通じて、早い段階で気づくことを重視しています。
一方、口腔機能低下症は、噛む力や舌の動き、飲み込む力など、複数のお口の機能が低下している状態を指します。歯科医院で専門的な検査を行い、歯科医師が診断します。
オーラルフレイルは、2024年に日本老年医学会、日本老年歯科医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の3学会によって定義が整理されました。
健康なお口の状態と、お口の機能が低下した状態との間に位置づけられています。
つまり、オーラルフレイルは、お口の健康について早めに見直すための大切なサインと考えることができます。
ただし、口腔機能低下症とは評価方法が異なるため、セルフチェックだけで診断することはできません。
なぜ高齢になるとお口の機能が衰えるのか
高齢者のお口の機能が衰える背景には、さまざまな原因があります。
代表的なものとして、次のような変化が挙げられます。
筋力の低下: 舌や唇、頬などの筋肉が弱くなり、食べ物をうまく動かしにくくなる
歯の減少: 歯を失うことで、食べ物を十分に噛み砕きにくくなる
唾液の減少: 薬の影響や病気などによって口が乾燥しやすくなる
噛み合わせの変化: 入れ歯が合わなくなるなど、噛む力が十分に発揮できなくなる
病気の影響: 脳血管疾患や神経・筋肉の病気などが、飲み込みや発音に影響する
こうした変化は、すべて年齢だけによって起こるわけではありません。
歯や入れ歯の状態、服用している薬、持病、日頃の生活習慣なども関係します。
そのため、「高齢だから仕方がない」と考えるのではなく、原因に応じて適切に対処することが大切です。
2. 見逃したくないお口の衰えのサイン
日常生活で気づきやすい変化

オーラルフレイルは、日常生活のちょっとした変化から気づけることがあります。
例えば、次のような様子です。
食事中の変化
- 食事中にむせることが増えた
- 硬い肉や野菜などを避けるようになった
- 食べこぼしが増えた
- 食事に時間がかかるようになった
- 食べ物が口の中に残りやすくなった
お口の状態の変化
- 口の中が乾燥しやすくなった
- 舌が動かしにくいと感じる
- 以前より滑舌が悪くなった
- 入れ歯が合わず、噛みにくそうにしている
こうした症状は、お口の衰えだけでなく、歯科疾患や薬の副作用、ほかの病気によって起こる場合もあります。
特に家族と一緒に食事をしているときは、普段との違いに気づきやすいタイミングです。
食べ方や話し方の変化が続いていないか、さりげなく気にかけてみましょう。
5つの項目でセルフチェック
日本老年歯科医学会では、オーラルフレイルを簡単に確認できる「OF-5(Oral Frailty 5-item Checklist)」というチェック方法を紹介しています。
次の5項目について確認してみましょう。
【オーラルフレイル・セルフチェック】
- □ 自分の歯が20本未満である
- □ 半年前と比べて硬いものが食べにくくなった
- □ お茶や汁物などでむせることがある
- □ 口の渇きが気になる
- □ 普段の会話で、言葉をはっきり発音できないことがある
※歯の本数は、差し歯やかぶせ物をした歯を含めますが、インプラントは含めません。
5項目のうち2項目以上に該当する場合は、オーラルフレイルに該当する可能性があるという判定基準です。
ただし、このチェックだけで口腔機能低下症などの病気を診断できるわけではありませんのでご注意ください。
1項目しか当てはまらない場合でも、気になる症状が続く場合には歯科医院で相談することをおすすめします。
症状が気になったらどうする?
お口の機能について気になることがあれば、まずはかかりつけの歯科医院に相談してみましょう。
歯科医院では、虫歯や歯周病の有無だけでなく、噛み合わせや入れ歯の状態、舌の動きなども確認できます。
必要に応じて、お口の機能を調べる検査を受けることもできます。
また、飲み込みにくさやむせ込みが続く場合には、嚥下機能(えんげきのう:飲み込む働き)の評価が必要になることがあります。
特に、食事中に繰り返しむせる、食後に声がガラガラする、原因不明の発熱や体重減少がある場合は、誤嚥などの可能性も考えられるため、早めに歯科や医科に相談することが大切です。
急に飲み込めなくなった場合や呼吸が苦しい場合には、速やかに医療機関を受診してください。
3. お口の衰えが全身の健康に与える影響
食事量や栄養状態への影響
お口の機能が衰えると、まず影響が現れやすいのが食事です。

例えば、噛む力が弱くなると、硬い肉や野菜などを食べにくく感じることがあります。
その結果、柔らかい食べ物ばかり選ぶようになり、食事の内容が偏ってしまう可能性があります。
また、飲み込みにくさがある場合には、食事そのものに負担を感じ、食べる量が減ってしまうこともあります。
食事量や食品の種類が減ることで、たんぱく質やエネルギーなどが不足すると、体重や筋肉量の減少につながる場合があります。
高齢者にとって、十分な栄養を摂取することは、筋力や体力を維持する上で重要です。
そのため、お口の健康を守ることは、単に「食べやすさ」を維持するだけでなく、身体全体の健康を支えることにもつながります。
フレイルや要介護リスクとの関係
オーラルフレイルは、全身のフレイルとも関係しています。
フレイルとは、年齢を重ねることなどによって、筋力や体力、認知機能、社会とのつながりなどが低下し、健康な状態と要介護状態の間にある状態を指します。
お口の機能が衰えると、次のような悪循環につながる可能性があります。
- お口の機能が衰える
- 食べられる食品の種類や食事量が減る
- 栄養不足や筋力低下が起こりやすくなる
- 体力が低下し、外出や活動の機会が減る
- 身体全体のフレイルが進行する可能性がある
さらに、滑舌の低下などによって会話に自信がなくなると、人との交流を避けるようになる場合もあります。
オーラルフレイルに該当する人は、将来的なフレイルや要介護認定などのリスクが高いことが研究で報告されています。
ただし、オーラルフレイルが必ず要介護状態を引き起こすという意味ではありません。
大切なのは、お口の衰えを全身の健康と切り離して考えず、早めの予防や適切な対応につなげることです。
4. 今日からできるオーラルフレイルの予防方法
お口の体操で噛む・飲み込む力を維持
お口の機能を維持する方法の一つに「口腔体操」があります。
口腔体操とは、舌や唇、頬などを動かすことで、お口の筋肉や機能を保つことを目的とした運動です。
代表的なものに「パタカラ体操」があります。
【パタカラ体操】
- パ: 唇をしっかり閉じてから、はじくように発音する
- タ: 舌先を上の前歯の裏につけるように発音する
- カ: 舌の奥を上あごにつけるように発音する
- ラ: 舌先を上あごにつけるように動かして発音する
それぞれの音をはっきり発音することで、唇や舌などを動かす練習になります。
また、次のような簡単な体操もあります。
【唇と頬の体操】
- 唇をすぼめて「ウー」の形を作る
- 唇を横に広げて「イー」の形を作る
- 頬を膨らませる
- 頬をすぼめる
このような動きを、無理のない範囲で繰り返してみましょう。
ただし、すでに飲み込みにくさが強い方や、神経・筋肉の病気がある方などは、自己判断で訓練を行わず、医師や歯科医師、言語聴覚士などに相談することが大切です。
歯磨きと口腔ケアの基本
お口の機能を維持するためには、歯や口の中を清潔に保つことも重要です。
歯磨きが不十分になると、虫歯や歯周病などによって歯を失ったり、痛みで食事を十分に噛めなくなったりすることがあります。
日常の口腔ケアでは、次のようなことを心がけましょう。
- 毎日の歯磨きで歯や歯ぐきの汚れを落とす
- 歯間ブラシやデンタルフロスなどを必要に応じて活用する
- 入れ歯を使用している場合は、適切に洗浄する
- 口の乾燥や痛み、傷などがないか確認する
- 定期的に歯科医院で歯や歯ぐきの状態を診てもらう
入れ歯を使っている方は、入れ歯が合っているかどうかも重要です。
合わない入れ歯を使い続けると、痛みや噛みにくさの原因になります。
また、介護が必要な方の場合は、本人だけで十分な歯磨きができないこともあります。
そのような場合には、介護者による口腔ケアや、訪問歯科診療・訪問歯科衛生指導などの支援を検討することもできます。
なお、飲み込む力が低下している方への口腔ケアでは、姿勢や水分の使用方法などに注意が必要です。状態に応じて専門職の指導を受けましょう。
食事や会話でお口の機能を保つ
特別な体操だけでなく、普段の食事や会話もお口の機能を使う機会になります。
例えば、食事では、よく噛んで食べることを意識することが大切です。
ただし、噛む力や飲み込む力が低下している場合に、無理に硬い食べ物を食べることは危険です。
安全に食べられる食品の硬さや大きさを選び、必要に応じて歯科医師や管理栄養士などに相談しましょう。
また、家族や友人との会話、歌を歌うこと、音読なども、唇や舌を動かす機会になります。
普段から人と話す習慣を持つことは、お口の機能だけでなく、社会的なつながりを維持するうえでも役立ちます。
日常生活の中では、次のようなことを意識してみましょう。
- 食事は急がず、安全に食べられる範囲でよく噛む
- 無理のない範囲で、さまざまな食品を楽しむ
- 家族や友人との会話の機会を大切にする
- 声に出して本を読んだり、歌ったりする
- お口の乾燥が気になる場合は、原因を確認して適切に対処する
オーラルフレイルの予防では、「お口を清潔にすること」と「お口の機能を使い続けること」の両方が大切です。
5. 歯科医院でできる検査と早期対応
口腔機能低下症の検査とは?
歯科医院では、お口の機能がどの程度保たれているかを調べるために、口腔機能検査を行うことがあります。
口腔機能低下症の評価では、主に次の7つの項目を調べます。
- 口腔衛生状態: 舌の汚れなど、お口の清潔さ
- 口腔乾燥: 口の中の乾燥状態
- 咬合力: 上下の歯で噛みしめる力
- 舌口唇運動機能: 舌や唇を素早く動かす力
- 舌圧: 舌で押す力
- 咀嚼機能: 食べ物を噛み砕く力
- 嚥下機能: 食べ物や飲み物を飲み込む力
検査には、専用の測定器を使うものや、決められた言葉を繰り返し発音するものなどがあります。
例えば、舌や唇の動きを調べる検査では、「パ」「タ」「カ」などの音を繰り返し発音し、1秒間に何回発音できるかを測定します。
また、舌の力を調べる検査では、専用の機器を使って舌が押す力を測定します。
こうした検査結果をもとに、歯科医師が口腔機能の状態を総合的に判断します。
口腔機能低下症は、原則として7項目のうち3項目以上に機能低下が認められた場合に診断されます。
ただし、検査にはそれぞれ判定基準があり、全身状態なども踏まえて歯科医師が判断します。
検査や口腔機能管理が公的医療保険の対象になる場合もありますが、年齢や診断、実施内容などによって条件が異なります。詳しくは受診先の歯科医院に確認しましょう。
定期的な歯科受診が大切な理由
歯科医院は、虫歯や歯周病を治療するだけの場所ではありません。
特に高齢者の場合、歯や入れ歯の状態に加えて、噛む力や飲み込む力など、お口全体の機能を確認することが重要です。
定期的な歯科受診には、次のようなメリットがあります。
- 虫歯や歯周病を早めに発見できる
- 入れ歯の不具合を確認できる
- お口の機能低下に気づくきっかけになる
- 自分に合った口腔ケアの方法を相談できる
- 必要に応じて専門的な検査や支援につなげられる
また、介護が必要になり、歯科医院への通院が難しくなった場合でも、訪問歯科診療を利用できることがあります。
訪問歯科診療では、歯科医師などが自宅や施設を訪問し、必要な歯科治療や口腔ケアなどを行います。
対応できる内容や利用条件は医療機関によって異なるため、かかりつけ歯科医院や地域の歯科医師会などに相談してみましょう。
まとめ|小さな変化に気づこう
オーラルフレイルは、噛む・飲み込む・話すといったお口の機能に、小さな衰えが重なり始めている状態です。
初期の変化は小さく、「年齢のせい」と見過ごされてしまうこともあります。
しかし、お口の機能は食事や会話だけでなく、栄養状態や全身の健康にも深く関係しています。
今回の記事で紹介したポイントを振り返ってみましょう。
- 小さな変化に気づく: むせる、噛みにくい、口が乾くなどの症状に注意する
- セルフチェックを活用する: 5つの項目でお口の状態を確認する
- 毎日の生活で予防する: 口腔体操や歯磨き、食事、会話などを大切にする
- 気になる症状は専門家に相談する: 歯科医院などで必要な検査や適切な対応を受ける
お口の衰えは、早めに気づいて適切に対応することで、機能の維持や改善が期待できる場合があります。
ご自身やご家族が、いつまでも食事や会話を楽しめるように、まずは日常生活の中でお口の健康に目を向けてみてはいかがでしょうか。
参考資料
日本老年歯科医学会「オーラルフレイルを知っていますか?」
https://www.gerodontology.jp/oralfrail/
日本歯科医師会「オーラルフレイル」
https://www.jda.or.jp/consultation/vol-31.html
厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者への対応」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth-summaries/h-08.html
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものです。個別の症状や治療については、医師・歯科医師などの専門家にご相談ください。